健康診断で「肝機能異常」を指摘されたら?専門医が解説
健診で「肝機能の項目で要再検査・要精密検査」と指摘された方へ。
健康診断の結果で、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPといった項目に「異常値」を指摘されて、不安を感じていませんか?
「特に体調は悪くないから」「お酒のせいだろう」と、そのまま結果を机の引き出しに仕舞い込んでしまう方も少なくありません。
しかし、専門医としてお伝えしたいのは、「症状がないから大丈夫」という自己判断は、肝臓においては極めて危険であるということです。
肝臓は病気が進行しても悲鳴を上げない「沈黙の臓器」です。健康診断で指摘される「肝機能異常」は、肝臓が静かに発している最初で最後のSOSサインかもしれません。
本記事では、消化器・肝臓の専門医が、健康診断の数値が意味する本当の病態から、放置するとどうなるのか、そして「何科を受診し、どのような検査を受けるべきなのか」まで、分かりやすく徹底的に解説します。
肝臓はなぜ「沈黙の臓器」と呼ばれるのか?
肝臓は、人間の右上腹部、肋骨に守られるように存在する、体内最大の広大な工場(臓器)です。
強い再生能力と予備能力
肝臓は非常にタフな臓器です。仮に病気や手術によって一部の細胞がダメージを受けても、残った正常な細胞がその分をカバーし、元の大きさに戻ろうとする「強い再生能力(予備能力)」を持っています。そのため、全体の大部分が破壊されるまで、自覚症状を出すことなく働き続けてしまいます。
肝臓の「内部」には、痛みを感じる知覚神経が通っていません(肝臓を包む外側の膜には神経があります)。そのため、炎症が起きて肝細胞が壊れていても、お腹が痛くなったり、違和感を覚えたりすることがありません。
「だるさ」や「黄疸(皮膚や目が黄色くなること)」といった明確な症状が出たときには、すでに肝硬変や肝不全など、病態がかなり進行しているケースが少なくないのです。
これだけは知っておきたい!健診の「肝機能」3つの数値
結果表に並ぶアルファベットの羅列。それぞれが肝臓のどのような状態を示しているのか、専門医が紐解きます。
AST(GOT)/ ALT(GPT)
これらは、肝臓の細胞(肝細胞)の中に大量に含まれている「酵素」です。
肝臓が何らかの原因でダメージを受け、肝細胞が破壊されると、細胞の中からこの酵素が血液中へと漏れ出します。つまり、「血液中のASTやALTの数値が高い=いま現在、肝細胞がリアルタイムで壊れている量が多い」ということを意味します。
- AST: 肝臓だけでなく、心臓の筋肉や骨格筋にも含まれます。
- ALT: そのほとんどが「肝臓」にのみ存在するため、ALTが高い場合はよりピンポイントに肝臓のトラブルが疑われます。
γ-GTP(ガンマジーティーピー)
たんぱく質を分解する酵素の一種で、主に肝臓から十二指腸へと続く「胆管(たんかん)」という胆汁の通り道に多く存在します。
- アルコールに非常に敏感に反応するため、「お酒の飲みすぎの指標」として有名です。
- お酒を飲まない人でも、「脂肪肝」や、胆管が石や腫瘍で詰まる「胆汁うっ滞」が起きると、この数値が跳ね上がります。
「肝機能異常」を引き起こす4大原因
数値が異常を示す背景には、主に以下のような原因が潜んでいます。現代の日本において特に急増しているのが、お酒を飲まない人の脂肪肝です。
脂肪肝(アルコール性・非アルコール性)
肝臓の細胞に脂肪(中性脂肪)が過剰に蓄積した状態です。いわゆる「肝臓のメタボ」です。
- アルコール性脂肪肝: 長年の過度な飲酒が原因。
- MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患): お酒をほとんど飲まないのに、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病が背景となり、肝臓に脂肪が溜まる病気です。放置すると一部が「MASH(代謝異常関連脂肪性肝炎)」という重症な状態へ移行し、お酒を飲まない人でも肝硬変や肝がんに進行することが分かっており、現在非常に警戒されています。
ウイルス性肝炎(B型肝炎・C型肝炎)
肝炎ウイルスに感染することで、肝細胞が持続的に破壊される病気です。
放置すると高確率で「慢性肝炎」から「肝硬変」、そして「肝がん」へと段階的に進行します。現代は非常に優れた抗ウイルス薬が登場しているため、早期に発見できればウイルスを体の中から排除したり、増殖を完全に抑え込んだりすることが可能です。
薬剤性肝障害
市販の風邪薬、サプリメント、健康食品、処方薬などを摂取した際、その成分や代謝物が肝臓に対して毒性を持ったり、アレルギー反応を起こしたりして肝機能が低下する病態です。本人が「体に良い」と思って飲んでいるサプリメントが原因であるケースも増えています。
アルコール性肝障害
長年にわたる多量飲酒によって肝臓に慢性的な炎症が起こる病気です。脂肪肝から始まり、アルコール性肝炎、そして最終的には肝硬変へと至ります。
肝機能異常を「放置」するとどうなるのか?恐怖の3ステップ
健康診断の「要精密検査」を無視して放置し続けた場合、肝臓はどのような運命をたどるのでしょうか。その進行プロセスは段階的です。
【ステップ1:慢性肝炎(脂肪肝)】
日常的に肝細胞が壊れ、常にマイルドな炎症が起きている状態です。まだ無症状の段階。
【ステップ2:肝硬変(かんこうへん)】
炎症と修復を繰り返した結果、肝臓が「繊維化」し、カチカチの石のように硬くなります。 全体の機能が著しく低下します。
【ステップ3:肝不全・肝がん】
解毒ができなくなり黄疸や腹水が出現(肝不全)します。 さらに、硬くなった肝臓の細胞から「がん」が発生しやすくなります。
一度「肝硬変」まで進んでしまうと、硬くなった肝臓の組織を元のフカフカで柔らかい状態に戻すことは極めて困難になります。だからこそ、ステップ1(慢性肝炎や脂肪肝)の段階でブレーキをかけることが何よりも重要なのです。
健康診断で「要精密検査」が出たらどうすればいい?
結果を受け取ってからの具体的なアクションプランです。
何科を受診すればいい?
まずは「消化器内科専門医」または「肝臓専門医」を掲げている医療機関を受診してください。「一般的な内科」でも初期対応は可能ですが、肝臓のエコー検査や特殊な血液検査に精通している消化器・肝臓の専門医(日本肝臓学会の専門医)に診てもらうのが最も確実です。
受診時に持参するもの
- 健康診断・人間ドックの結果表(原本): 数値の推移を見るため、もし過去数年分の結果があれば一緒に持参してください。
- お薬手帳: 服用している処方薬だけでなく、普段飲んでいるサプリメントやプロテイン、健康食品の名前もすべて医師に伝えてください。
医療機関で行われる主な精密検査
病院では、採血による原因ウイルスの有無の特定に加え、以下のような痛みのない画像検査を行います。
- 腹部超音波(エコー)検査:お腹にゼリーを塗り、機械を当てるだけの簡単な検査です。肝臓の形、脂肪の溜まり具合(白く映ります)、腫瘍の有無、胆管の腫れなどをリアルタイムで非常に精密に観察できます。
- 肝臓の硬さを評価:当院では専用の機械で、最新の超音波音響放射圧技術「Share Wave/エラストグラフィ)」を用いて身体に負担をかけずに、肝硬度測定を実施しています。当院の専門外来でが、肝臓の専門医が、脂肪肝の進行度や肝線維化(硬さ)をその場でリアルタイムに高精度に評価いたします。痛み少なく、わずか数分の検査で早期発見・早期治療へと繋げますので、健診結果が気になる方はお気軽にご相談ください。
- 精密採血:B型・C型肝炎ウイルスの検査を行います。また性別や年齢などを考慮して、必要に応じて、自己免疫性の肝疾患のチェックや、肝臓の「繊維化(硬さ)」の進み具合を測る特殊なマーカー(ヒアルロン酸や4型コラーゲンなど)を調べます。
日常生活でできる!肝機能を改善するための3つのセルフケア
精密検査を受け、医師から「生活習慣の改善で様子を見ましょう」と言われた場合、あるいは日々の数値をこれ以上悪化させないための基本的なアプローチです。
食生活の改善(糖質と脂質のコントロール)
脂肪肝を改善するためには、カロリーの過剰摂取を抑えることが最優先です。
- 果物や清涼飲料水の摂りすぎに注意: 果物に多く含まれる「果糖」や、ジュースに含まれる「果糖ぶどう糖液糖」は、小腸で吸収されたあと、ダイレクトに肝臓で脂肪へと作り変えられてしまいます。
- 夜遅い食事を避ける: 夜間に摂ったエネルギーは脂肪として肝臓に蓄積されやすくなります。
有酸素運動と筋肉量の維持
適度な運動は、肝臓に溜まった脂肪を効率よく燃焼させます。
- ウォーキングや水泳などの有酸素運動を1日30分、週に3回以上を目安に行いましょう。
- スクワットなどの軽い筋トレで筋肉量を増やすと、基礎代謝が上がり、肝臓への脂肪蓄積を防ぐ体質を作ることができます。
正しい休肝日の設定(節酒)
お酒が原因の肝機能異常(特にγ-GTPの高値)の場合、最も効果的なのは当然「お酒を控えること」です。
- 週に最低でも「連続した2日」の休肝日を作ってください。1日だけ小休止するよりも、2日連続で肝臓を休ませる方が、肝細胞の修復効率が格段に上がります。
肝機能異常に関するよくある質問(Q&A)
Q1. お酒を全く飲まないのにγ-GTPが高いのはなぜですか?
A. 主な原因は「脂肪肝」または「服用しているお薬・サプリメント」です。
γ-GTPはアルコールに反応するイメージが強いですが、肝臓に脂肪が溜まって肝細胞が肥大化したり、胆汁の流れが悪くなったりすることでも数値が上昇します。お酒を飲まないからといって安心せず、生活習慣を見直すか、医療機関でのエコー検査を受けてください。
Q2. 数値が少し基準値を超えているだけなら、次の健診まで待ってもいいですか?
A. 初めて指摘された場合や、段階的に数値が上がっている場合は、速やかな受診をおすすめします。
「少しだけ超えている」状態であっても、それが何ヶ月も、何年も持続していると、水面下でゆっくりと肝臓の繊維化(硬化)が進行しているケースがあります。一度専門医を受診し、「本当に次の健診まで待っていい状態なのか」を評価してもらうのが安全です。
Q3. 肝臓に良いとされるウコンやサプリメントは飲んだ方が良いですか?
A. 自己判断での摂取はおすすめしません。むしろ「薬剤性肝障害」の原因になることがあります。
肝機能が低下している状態でサプリメントを摂取すると、それを代謝する肝臓に余計な負荷をかけることになります。医療の世界では、ウコンや特定の健康食品によって重篤な肝障害を引き起こした事例がいくつも報告されています。まずは原因を特定することが先決です。
まとめ:数字の裏にある「肝臓の声」に耳を傾けよう
健康診断で突きつけられた「肝機能異常」という結果は、決してあなたを脅かすためのものではありません。むしろ、自覚症状を出すことができない健気な肝臓が、「これ以上負担をかけないで!」とあなたに送ってくれた貴重なサインです。
- 症状がないからと放置しない
- まずは消化器内科・肝臓内科で1回エコー検査を受ける
- 原因に合わせた正しい食事・運動・節酒を始める
このステップを踏むだけで、肝臓の病気の大部分は進行を食い止め、健康な状態へと引き返すことができます。大切な肝臓を守るために、ぜひ一歩を踏み出して専門医にご相談ください。

