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消化器病専門医の視点:知っておきたい胃がんとピロリ菌、慢性胃炎の関係

胃がんは、日本において依然として男女ともに、がん死亡原因の上位を占める疾患です。年齢別の罹患率を見ますと、40代後半から徐々に増えはじめ、50代以降で急激に増加していることがわかります。その背景には多量の塩分接種や飲酒、喫煙などいくつかの要因が指摘されていますが、中でも注目すべきは「ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)」との関連です。胃癌の原因は、その95‐99%がピロリ菌感染に関連するものと考えられています。ピロリ菌に感染することで萎縮性胃炎が起こり、それを契機に胃癌が発生します。内視鏡専門医として日々多くの胃がん患者さんを診断・治療する中で、ピロリ菌の検査と除菌治療が、胃がんの予防にいかに重要であるかを痛感しています。

ピロリ菌とは?

ピロリ菌は、胃の粘膜に生息する螺旋形の細菌で、主に幼少期に口から感染します。通常の細菌と異なり、胃酸の中でも生き延びるため、一度感染すると自然には消えにくく、長期にわたって胃に慢性炎症を引き起こします。これが慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、そして最終的には胃がんのリスクを高める原因となるのです。

ピロリ菌と胃がんとの関係

実際に、胃がん患者の多くがピロリ菌に感染していたことが複数の研究で報告されています。特に「萎縮性胃炎」や「腸上皮化生」といった前がん病変は、ピロリ菌感染が長期にわたって持続することによって進行していくと考えられています。重要なのは、萎縮性胃炎はほとんどの場合、除菌後も残存する、ということです。このような胃粘膜を背景に、経年的に胃癌が発生します。健康診断などで胃カメラ(内視鏡検査)を行うと、胃の粘膜の状態や変化を詳細に観察することができるため、ピロリ菌によるダメージの進行具合を把握することが可能です。

こちらは、ピロリ菌と胃癌リスクの関係を明らかにするため行われた研究です。ピロリ菌陰性者280人、ピロリ菌陽性者1246人、計1526人を対象とした平均7.8年間の追跡研究であり、なんと追跡期間中、ピロリ菌陰性者からの胃癌発生はみられませんでした。この論文でもそうですが、ピロリ菌感染による胃癌発症リスクが、多くの過去の研究から示されています。

ピロリ菌の検査は?

代表的なピロリ菌検査には、スマートジーン(PCR検査)・尿素呼気試験・ピロリ菌抗体検査・便中抗原検査・迅速ウレアーゼ検査などがあります。いずれもメリット、デメリットがありますが、非常に簡単に調べることができます。注意点は、いずれの検査も保険適応で行うならば、まず胃カメラ検査を行う必要があることです。

胃がんの予防のためにできること

ピロリ菌の感染が確認された場合、除菌治療が推奨されます。抗生物質と胃酸を抑える薬を1週間程度服用することで、多くの場合、菌を排除することができます。除菌によってすべてのリスクがゼロになるわけではありませんが、胃がんの発症リスクを大幅に低下させることが明らかになっています。

ピロリ菌の除菌をすれば安心?

では、除菌をすれば安心かといえば、、、実はそうではありません。内視鏡専門医として強調したいのは、「除菌後の経過観察」の重要性です。特に除菌前にすでに粘膜の萎縮や変性が進行し慢性胃炎となっていた場合、胃がんのリスクは完全には消えません。大事なことは、ピロリ菌除菌を行うことが可能ですが、慢性胃炎を元通りに改善する治療はないという事です。そして、慢性胃炎(萎縮性胃炎)は胃癌の発生母地となります。そのため、定期的な胃カメラ(内視鏡検査)によるモニタリングが欠かせません。

したがって胃癌を対策としては、

①ピロリ菌除菌 と ②定期的な内視鏡検査

の2つが大変重要です。

「ピロリ菌除菌」は胃癌発症リスクの軽減が目的、「定期の胃カメラ(内視鏡検査)」は胃がんの早期発見が目的であり、この両者の目的の違いを、理解することも大切です。

本日のまとめ ~消化器内科専門医のすすめ~

胃がんは早期発見・早期治療によって治癒が期待できるがんです。そして、その予防の第一歩が「ピロリ菌感染の有無を知ること」です。ピロリ菌への感染がある方は将来の胃がんリスクが高まるため、除菌治療を受けて胃がんのリスクを減らしましょう。また慢性胃炎がある方は、定期的に内視鏡検査を行うことで、胃がんの早期発見を行い、早期治療へ繋げて根治することが大変重要です。
今や「胃がんは予防できる病気」です。自身の胃の健康に関心を持ち、早めの対策を心がけましょう。