内視鏡検査で異常がないと言われたが、、、過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアとは
「毎日胃がもたれる、胸やけがする」 「お腹の張りや下痢、便秘が続いてつらい」
このようなつらい症状があり、意を決して内科や消化器内科を受診し、胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査を受けたにもかかわらず、医師から「特に異常はありませんよ」と言われて困惑した経験はないでしょうか。
「異常がないのは安心だけど、じゃあこの体調不良の原因は何?」と、一人で悩んでしまう方は少なくありません。
実は、内視鏡検査で「胃や腸の見た目(粘膜)」に炎症やがんなどの異常が見つからないにもかかわらず、症状が慢性的に続く場合、「機能性疾患(きのうせいしっかん)」という病気が原因の可能性があります。その代表格が、「過敏性腸症候群(IBS)」と「機能性ディスペプシア(FD)」です。
今回は、これら現代病とも言われる2つの機能性疾患について、原因や特徴的な症状、治療法、そしてなぜ「異常なし」と言われても消化器内科での専門的な診断が必要なのかを詳しく解説します。
1. 内視鏡検査で異常がない「機能性疾患」とは?
従来の医学では、胃潰瘍や大腸がんのように、検査によって「目に生じる異常(器質的病変)」を発見することに主眼が置かれていました。しかし、人間の消化管はデリケートであり、目に見える傷がなくても不調を起こします。
「見た目」ではなく「働き(機能)」の異常
機能性疾患とは、胃カメラや大腸カメラ、CT検査などを行っても、粘膜の腫れや潰瘍、腫瘍といった「胃腸の見た目の異常」は一切認められない病気です。
「機能性」という名前の通り、以下のような胃や腸の「働き・機能」に問題が生じることで、さまざまなお腹の症状が引き起こされます。
- 消化管の運動異常:胃や腸の動きが早すぎたり、逆に停滞したりする。
- 知覚過敏:通常なら気にならない程度のわずかな刺激(ガスや酸など)に対して、脳が「痛み」や「不快感」として過剰に受け取ってしまう。
これらの異常は、自律神経の乱れ、精神的・身体的ストレス、ライフスタイルの乱れなどが複雑に絡み合って起こります。
2. 日本人の10人に1人が悩む「過敏性腸症候群(IBS)」
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、大腸や小腸の運動異常や知覚過敏が原因で、お腹の痛み、下痢、便秘などの便通異常、さらにお腹の膨満感(張り)が数ヶ月以上にわたって持続する病気です。
日本人の約10人に1人が抱えていると推定される非常に身近な「現代病」であり、当院にも多くの患者さんが定期通院されています。
過敏性腸症候群(IBS)の主な原因
いくら画像検査をしても腸の粘膜はきれいで、炎症などは見つかりません。最大の特徴は、「ストレス」や「食生活の影響」を強く受ける点にあります。
精神的なプレッシャーや寝不足、生活リズムの乱れによって「自律神経」が乱れると、脳と腸の間で行われている情報交換(脳腸相関)がスムーズにいかなくなります。その結果、腸の動きが暴走して下痢や便秘を起こしたり、腸が過敏になって少しのガスでも激しい腹痛を感じたりするようになります。
【チェック】過敏性腸症候群の代表的な症状
過敏性腸症候群は、便通の状態によって「下痢型」「便秘型」「交互型(下痢と便秘を繰り返す)」などに分類されます。
- お腹の不快感、慢性的なお腹の張り(膨満感)
- 排便すると一時的に和らぐ腹痛
- 突然激しい下痢に襲われる(特に通勤・通学前や緊張する場面)
- 便秘が続き、ウサギの糞のようなコロコロとした便が出る
- 下痢と便秘を数日おきに繰り返す
過敏性腸症候群の治療アプローチ
症状をコントロールし、日常生活の質(QOL)を改善するために、以下の3つの柱を中心に治療を行います。
- 薬物療法:腸の動きを整えるお薬、便の硬さを調整するお薬、腸の知覚過敏を抑えるお薬、乳酸菌(整腸剤)などを、患者さんの症状のタイプに合わせて処方します。
- 食事習慣の改善:暴飲暴食を避け、香辛料や脂っこい食事、アルコールなどの刺激物を控えます。近年では、特定の糖質を控える食生活(低FODMAP食)が有効な場合もあります。
- ストレス管理と生活習慣の見直し:十分な睡眠をとり、軽い運動を取り入れるなどして、自律神経のバランスを整えます。

3.胃の不快感が続く新常識「機能性ディスペプシア(FD)」
胃カメラを受けても食道・胃・十二指腸に潰瘍やがん、進行したピロリ菌感染などの異常がないにもかかわらず、みぞおちの痛みや胃もたれが慢性的に続く疾患を「機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)」と呼びます。
ひと昔前までは、病院に行っても原因が分からず「気のせい」「神経性の胃炎」「ストレスですね」などと片付けられてしまうことが少なくありませんでした。しかし現在では、医学的に確立された一つの「病気」として、しっかりと適切な治療ができる時代になっています。
日本人の5〜10人に1人はこの機能性ディスペプシアを抱えているといわれており、胃の不調で医療機関を受診する方の約半数がこの病気と診断されるほど頻度の高い疾患です。
機能性ディスペプシア(FD)の主な原因
主に胃の「適応性弛緩(しかん)の障害」「排出能の低下」「知覚過敏」が原因と考えられています。
- 胃が広がらない(適応性弛緩障害):通常、食事が胃に入ると胃はふくらんで食べ物を貯留します。しかし、この機能が低下すると、少し食べただけで「すぐにお腹がいっぱい(早期腹満感)」になります。
- 胃の動きが悪い(胃排出能低下):胃に入った食べ物を十二指腸へ送り出す力が弱いため、いつまでも胃の中に食べ物が残り、食後のひどい「胃もたれ」を引き起こします。
- 胃の知覚過敏:胃酸に対する感度が過剰になっているため、胃酸が分泌されると「みぞおちがジリジリ痛む(心窩部痛)」「胸やけがする」といった症状が現れます。
これらに加え、不規則な生活、過食、過度の喫煙や飲酒、精神的ストレスが引き金となって症状が悪化・長期化(3ヶ月以上持続)します。
【チェック】機能性ディスペプシアの代表的な症状
- 食後のひどい不快感(胃もたれ、お腹の上部が張る)
- 早期腹満感(少し食べただけで満腹になり、それ以上食べられない)
- みぞおちの痛み(心窩部痛)や、胸が焼けるような感じ(胸やけ)
- 頻繁に出る吐き気やげっぷ
機能性ディスペプシアの治療アプローチ
「気の持ちよう」で片付けるのではなく、お薬の力を借りながら生活を整えていくことが回復への近道です。
- 薬物療法:胃酸の分泌を強力に抑える薬(酸分泌抑制薬)や、胃の動きを活発にして食べ物の排出を促す薬(消化管運動機能改善薬)、症状によっては漢方薬や抗不安薬などが効果を発揮します。
- 食事・生活習慣の見直し:一度に多く食べられない場合は1回の量を減らして回数を分ける、規則正しい時間に食事を摂る、脂肪分の多い食事やアルコール・カフェインを控える、禁煙する、などが非常に有効です。

4. なぜ「自己判断」は危険?最初に内視鏡検査が必要な本当の理由
過敏性腸症候群も機能性ディスペプシアも、適切な治療を行えば症状を大幅に和らげることができます。しかし、ここで最も重要な注意点があります。
それは、「自己判断で『これは機能性疾患(ストレス)だ』と思い込んではいけない」ということです。
恐ろしい「器質的疾患」を完全に除外するため
機能性疾患を正確に診断するためには、大前提として「胃がん、大腸がん、胃・十二指腸潰瘍、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)、ピロリ菌感染」といった、命に関わる、あるいは物理的な治療が必要な病気(器質的疾患)が絶対に隠れていないことを証明しなければなりません。
たとえば、「ただの下痢・便秘」「ただの胃もたれ」だと思って市販薬でごまかしていたら、実は大腸がんや胃がんが進行していた、というケースは決して珍しくありません。
確かな診断プロセス
- 消化器内科を受診し、症状を相談する
- 胃カメラ・大腸カメラなどの内視鏡検査を行い、粘膜にがんや潰瘍がないか「目視」で確認する(器質的疾患の除外)
- 異常がないことを確認した上で、初めて「過敏性腸症候群」や「機能性ディスペプシア」としての最適なアプローチ・専門治療を開始する
このように、内視鏡検査で「異常がない」とわかることは決して無駄ではなく、次の正しい治療ステップへ進むための極めて重要なプロセスなのです。
5. まとめ:お腹の不調を「体質」や「気のせい」にせず、消化器内科へご相談ください
胃もたれや胸やけ、お腹の張り、下痢、便秘といった慢性的な症状は、命に直接別条がないとしても、毎日の生活の質(QOL)を著しく低下させます。「どうせ病院に行っても異常なしと言われるから」「ストレスのせいだから我慢するしかない」と諦める必要はありません。
現在は、機能性疾患に対する優れたお薬や治療の選択肢が数多く存在します。
当院では、患者さんお一人おひとりのつらい症状を丁寧にヒアリングし、まずは苦痛の少ない精密な胃カメラ・大腸カメラ検査によって他の重大な病気が隠れていないかを徹底的に調べます。その上で、過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアの診断がついた場合は、最新の知見に基づいたオーダーメイドの薬物療法や、実践しやすい食事・生活習慣の指導を行い、症状の根本的な改善を目指します。
長引く胃腸の不調にお悩みの方は、どうぞ一人で抱え込まず、いつでもお気軽に当院の消化器内科までご相談ください。
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